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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)9696号 判決

判   決

東京都品川区上大崎四丁目二七七番地

原告

株式会社同潤社

右代表者代表取締役

岩丸丑之助

右訴訟代理人弁護士

関口保二

大阪市東淀川区新高南通三丁目一番地

被告

株式会社鷲尾工作所

右代表者代表取締役

鷲尾丁一

東京都品川区東品川四丁目七一番地

被告

菅野新助

同所

被告

勝沼篤

右被告三名訴訟代理人弁護士

村上晋一

主文

一、原告と被告株式会社鷲尾工作所間において、別紙目録(一)の土地が原告の所有であることを確認する。

二、被告株式会社鷲尾工作所は原告に対し、前項の土地につき、所有権移転登記手続をせよ。

三、被告株式会社鷲尾工作所は原告に対し、別紙目録(一)の土地を、その地上にある同目録(二)の建物を収去して明渡せ。

四、被告菅野新助、同勝沼篤は原告に対し、別紙目録(一)の土地を、その地上にある同目録(二)の建物より退去して明渡せ。

五、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告―左記判決および主文第三、第四項につき仮執行の宣言。

「主文と同旨」

二、被告ら―左記判決。

「請求棄却。訴訟費用は原告の負担」。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

(一)  別紙目録(一)、(三)の各土地および同目録(二)、(四)の各建物(以下別紙目録(一)の土地を本件土地、同目録(二)の建物を本件建物という)は、もと音峰薫の所有であつたが、原告は昭和二二年七月九日、右音峰から前記土地、建物および同人所有にかかる機械、器具、電話等を代金合計金一二五万円で買受け、その所有権を取得した。

(二)  ところで本件建物所有権は、その後原告から協和電気株式会社、同会社から竹内文雄、次いで同人から昭和三一年六月二八日被告株式会社鷲尾工作所(以下被告会社という)へと順次移転され同日以降被告会社は本件建物を所有することにより本件土地を占有し、また被告菅野、同勝沼は被告会社と共に本件建物を占有して本件土地を共同占有している。

(三)  一方本件土地には、東京法務局品川出張所昭和三三年二月二五日受付第三、一一八号による同年同月二四日付売買を原因とする被告会社のための所有権移転登記が存在し、同被告は本件土地を右売買により前記音峰から買受けたと称して、原告の同土地に対する所有権を争つている。

(四)  よつて原告は被告会社に対し、原告が本件土地の所有権を有することの確認および右所有権に基いて、本件土地につき原告のため所有権移転登記手続をすること、ならびに本件土地をその地上にある本件建物を収去して原告に対し明渡すことを求め、また被告菅野同勝沼に対しては、同様所有権に基き、本件建物より退去して本件土地を明渡すことを求める。

二、被告らの答弁および抗弁

(一)  答弁

(1) 請求原因第一項に対し

「原告主張の土地、建物がもと音峰薫の所有であつたこと」は認める。しかしその余は全部争う。

(2) 同第二、第三項は認める。

(二)  抗弁

仮に原告がその主張のように、音峰から本件土地を買受けて、その所有権を取得したとしても、被告会社もまた昭和三三年二月二四日、音峰から本件土地を買受けて、その所有権を取得した。しかるに原告の右所有権は登記されていない。したがつて、原告は右所有権を以て第三者である被告らに対し対抗できないものである。

三、抗弁に対する原告の答弁および再抗弁

(一)  答弁

右抗弁中「本件土地に対する原告の所有権取得が登記されていないこと」は認める。しかしその余は全部争う。

(二)  再抗弁

仮に被告会社がその主張のように、音峰から本件土地を買受けたとしても、被告ら(特に被告会社)は、左記事由により、原告の右登記の欠を主張する正当の利益を有しない。

(1) 被告会社と音峰間の前記売買契約は次のように、公の秩序・善良の風俗に反するから無効である。すなわち、

(イ) 被告会社は音峰薫および前記竹ノ内文雄と共謀のうえ、いずれも本件土地が原告の所有であることを知悉していながら、これを横領しようと企て、前記のように原告が音峰から本件土地を買受けたにもかかわらず、未だその所有権移転登記を経由していないのを奇貨として、被告会社が音峰からこれを二重に譲受け、一方竹ノ内が不動産登記法所定の保証書を作成し、以て被告会社のため本件土地の所有権移転登記手続を完了して、本件土地横領の目的を遂げ(少くとも音峰の右土地横領を容易ならしめ)、原告の所有権を侵害した。したがつて被告会社と音峰間の右売買契約は共同不法行為というべきである。

(ロ) また被告会社と音峰間の右売買当時における本件土地の価格は、金四、六七四、二四〇円であつたところ、被告会社は音峰が当時勤務先で窃盗を働いたことにより、解雇されたうえ、大森簡易裁判所において懲役一年(執行猶予二年)の刑の言渡を受け、極度に窮迫、焦慮していたのに乗じて、不当に廉価で本件土地を入手しようと企て、代金僅か前記時価の四分の一に過ぎない金一、一八九、八〇〇円、しかもその支払方法は、契約当日に現金で金六〇万円、残金は三ケ月ないし六ケ月後払の約束手形四通により分割弁済するという著しく被告会社に有利な条件で本件土地を買受けたものであるから、右売買は被告会社が他人の窮迫に乗じて、不当の利益を博したものというべきである。

(2) 仮に被告会社と音峰間の前記売買契約が有効であるとしても、被告会社は次のように原告に対し著しく背信的な悪意の第三者(二重譲受人)である。

すなわち、原告はかねてより被告会社に対し本件土地の明渡を求めていたが、昭和三二年七月六日原告代表者岩丸丑之助および原告代理人藤田政義弁護士を被告会社東京営業所に差し向けて、同会社に対し右土地を本件建物を収去して明渡すよう請求したところ、被告会社は本件土地が原告の所有であることを認めたうえ、原告に対し示談を申入れ、原告がこれを承諾するや、その後被告会社の代理人村上晋一弁護士を通じて原告代理人藤田弁護士と本件土地の賃借等につき示談の交渉を進め、他方積極的に同年八月二〇日と同年一〇月一六日の二回に亘り、同年七月分から同三三年三月分までの本件土地の賃料として合計金一五、〇〇〇円を、前記村上弁護士をして原告代表者岩丸丑之助に宛て供託させた。そこで原告は将来も被告会社が原告を本件土地の所有者として取扱うものと信用して、前記示談の成立に努め、同被告に対し保全処分その他裁判上の権利行使はこれを差控えていたところ、被告会社はこれを奇貨として、その後音峰および竹ノ内らと共謀のうえ、ひそかに前記のように本件土地を二重に音峰から譲受け、これが所有権取得登記手続を完了して、音峰の右土地横領を容易ならしめ、以て原告に対し共同不法行為をなし、その結果原告が本件土地につき音峰から前記売買による所有権移転登記手続を受けることを不能にした。したがつて、かくの如き被告会社が原告に対し右登記の欠を主張することは、信義則に反し許されないというべきである。

それゆえ原告は登記なくしても、被告らに対し本件土地の所有権を以て対抗することができる。

四、再抗弁に対する被告らの答弁

(一)  公序良俗違反の再抗弁に対し、

(1) 「被告会社が音峰から本件土地を代金一、一八九、八〇〇円で買受けて、その所有権移転登記手続を経由したこと。および音峰が大森簡易裁判所において、原告主張の刑の言渡を受けたこと」は認める。しかし、その余は全部争う。

(2) 被告会社と音峰間の右売買契約は、次のように全く公正な取引である。すなわち被告会社は、音峰が本件土地の固定資産税および都市計画税を滞納したため、東京都から昭和三三年二月二五日同土地を公売処分に附する旨の決定を受けたので、右公売において本件土地を落札しようと考えていたところ、その頃突然、音峰が被告会社東京営業所を訪れたので、結局同人から本件土地を買受けることになり、右代金については、前記公売における本件土地の見積価格(最低公売価格)が金八一八、〇〇〇円であつたので、これを基準とし、更に音峰の利益その他諸般の事情を考慮して、右見積価格の約一、五倍に相当する金一、一八九、八〇〇円を以て代金と定め、前記のように売買契約を締結した。したがつて右売買は本件土地の横領を目的とする共同不法行為または被告会社が音峰の窮迫に乗じて不当な利益をむさぼらんとしたものでは決してない。

(二)  背信的悪意の再抗弁に対し、

(1) 「藤田弁護士が原告主張の日に、被告会社東京営業所を訪問したこと。村上弁護士が藤田弁護士と交渉したこと。被告会社の本件土地の賃料供託の点および同会社が音峰から本件土地を買受けて、その所有権取得登記手続を完了したこと。」は認める。しかしその余は全部争う。

(2) 被告会社は次のように全く善意の第三者である。

すなわち、被告会社は昭和三一年六月、前記竹ノ内から本件建物と本件土地の借地権(当時竹ノ内は音峰から右土地を賃借していた)を譲受けたが、その際被告会社は右竹ノ内の説明と登記簿謄本の記載により本件土地が音峰の所有であることを確認し、次いで原告との間に紛争が生じた際も音峰を捜したが、所在不明であつたので、同人に対し本件土地の賃料を供託すると共に念のため、本件土地の管理人であると称していた原告代表者岩丸に対しても、原告主張のように右賃料を供託した。ところがその後被告会社は前記のように、本件土地が音峰の税金の滞納により公売されることを聞いたので、これを落札しようと考えたところ間もなく音峰が姿を現わし、被告会社に対し「本件土地はもと音峰が東京市から払下を受け、六〇年間地租免除を受けた埋立地であるので前記のように、本件建物を原告に売つた際も、本件土地だけは売らなかつたものであること。および音峰が岩丸に対し右土地の管理を委任したこともないこと。」を明言し、また本件土地の権利証(登記済証)については、本件建物を原告に譲渡した際、同人の要求により急ぎ同建物から引越したため、そのとき紛失したものである旨説明したので、いよいよ本件土地が音峰の所有であると信じて、前記のように同人と本件土地の売買契約を締結し、所有権移転登記手続を経由したものである。したがつて被告会社はいまだかつて原告が本件土地の所有者であると認めたことなく、また同人に対し何ら信義則に反する事実もない。

第三、立証《省略》

理由

第一、本件土地の所有権の帰属。

一、「本件土地、建物および別紙目録(三)の土地、同(四)の建物がもと音峰薫の所有であつたこと」は当事者間に争がない。そして、(証拠―省略)を綜合すれば、「原告は昭和二二年七月九日、音峰薫から本件土地を含む同人所有にかかる前記土地、建物および機械、器具、電話等を代金合計金一二五万円で買受け、同年一〇月六日までに右代金全額の支払を終えたこと」を認めることができる。他に右認定を左右するに足る証拠はない。

二、そこで、被告らの抗弁につき判断する。(証拠―省略)を綜合すれば、「被告会社もまた、昭和三三年二月二四日、音峰から本件土地を代金一、一八九、八〇〇円で買受けたこと」を認めることができる。他に右認定を左右するに足る証拠はない。しかるところ、「本件土地に対する原告の前記音峰との売買に因る、所有権取得が登記されていないこと」は当事者間に争がない。

三、そこで進んで、原告の再抗弁につき、順次判断する。

(一)  公序良俗違反の再抗弁について

(1) まず、被告会社と音峰間の前記売買契約が原告に対する共同不法行為であるか否かについて按ずるに、(証拠―省略)ならびに弁論の全趣旨を綜合すれば、「音峰が本件土地を原告に売渡し、その代金を受領しながら、その後、右土地につき原告のため所有権移転登記手続が経由されていなかつたことを奇貨として、これをほしいままに被告会社に二重に売渡し、その旨の所有権移転登記手続を経由して、以て本件土地を横領したものであること」は疑いがない。(但し、右事実中、本件土地につき被告会社のため所有権移転登記が経由されたことは当事者間に争がない。)しかしながら、被告会社が音峰および竹ノ内と共謀して、本件土地を横領したもの、または音峰の右横領を幇助したものとの原告主張の事実については、原告提出の全立証その他本件に顕れた全証拠を以ても、いまだこれを認めるに足りない。もつとも、「被告会社が、音峰と前記売買契約を締結するとき、既に原告が本件土地を音峰から買受けて、これを所有しているものであることを知つていたこと」は後述のとおりであるが、これのみを以ては、到底、被告会社が音峰の前記横領に加担したものであるとは断定できない。したがつて被告会社と音峰間の前記売買契約は、いまだ原告に対する共同不法行為といえないものというべきである。

(2) 次に、右売買契約が音峰の窮迫に乗じてなされた不当のものか否かについて按ずるに、(証拠―省略)によれば「右売買当時における本件土地の時価(更地価格)は金四、六七四、二四〇円であつた」のに「被告会社と音峰間の前記売買代金は金一、一八九、八〇〇円であつたこと」当事者間に争なく、しかも右売買代金の支払は、前掲(省略)によれば「原告主張の方法により分割弁済するという約束」であつて、被告会社にとり極めて有利な条件であつたにもかかわらず、その相手方である音峰は、前掲(省略)によれば、「右売買当時、勤務先で窃盗を働いたことにより、解雇されたうえ、大森簡易裁判所において原告主張の刑の言渡を受け、(但し、右刑の言渡の点は当事者間に争がない。)経済的に相当困窮していたこと」明らかであるから、以上を綜合考察すれば、前記売買は、被告会社が音峰の窮迫に乗じて不当の利益を博したものとみられない訳でもない。しかしながら、他面、(証拠―省略)を綜合すれば、「被告会社は、昭和三三年二月初め頃、東京都品川税務事務所から、音峰が本件土地の固定資産税および都市計画税を滞納したため、同月二五日に右土地が公売されることを聞いたので、右公売において本件土地を落札しようと考えていたところ、その頃突然音峰が被告会社東京営業所に現れて、同会社に対し本件土地の売買を申し入れたので結局被告会社はこれを承諾することになり、右代金については、前記公売における本件土地の見積価格(最低公売価格)が金八一八、〇〇〇円であつたので、その一・五倍を基準とし、これに坪当単価の端数切上げ、公簿面積に対する実測坪数の不足分の減額、前記音峰の税金分の控除(右税金は被告会社が支払つた)等を施して、結局、前記金一、一八九、八〇〇円を以て代金と定め、前記売買契約を締結したこと」が認められ、また「右売買当時、音峰が勤務先で窃盗を働いたことにより、解雇されたうえ、前記刑の言渡を受けたことを被告会社が知つていたものである」と認めるに足る証拠もないから以上説示の諸事情のもとでは、前段認定の各事実を以ても、いまだ被告会社が音峰の窮迫に乗じて、不当な利益をむさぼるため、前記売買契約を締結したものとは認めるに足りず、他に右事実を認めるに足る証拠もない。

(3) それゆえ、原告の公序良俗違反の再抗弁は採用しない。

(二)  背信的悪意の再抗弁について、

思うに、民法第一七七条にいわゆる第三者とは、「登記の欠を主張するにつき、正当の利益を有する第三者」を指し、その善意、悪意はこれを問わないのが原則であるが、当該第三者が特定不動産の物権変動の当事者に対し、未登記ではあるが、当該物権の存在を承認し、更には自ら積極的に当該物権の存在を前提とする行為をする等、右権利者をして、それ以降、右第三者に対し、自己を当該物権者として処遇するよう期待することが当然であると思われるような事情ある場合には、当該第三者は爾後、「登記の欠を主張するにつき、正当の利益を有する第三者」に当らないというべきである。蓋し、右のような第三者が其後に至り、擅にその態度を一変して、当該権利者に対し登記の欠を理由に、当該物権の存在を否定することは、信義誠実の原則に違反し、不動産登記法第四条、第五条に規定する事由に類する背信的行為というべきであるからである。そこで、これを本件についてみるに、

まず、(証拠―省略)および弁論の全趣旨を綜合すれば「原告は、昭和三二年七月初め頃、被告会社が、もと原告から本件土地を賃借して本件建物を所有していた竹ノ内文雄より、同三一年六月二八日、本件建物を右借地権と共に譲受けて爾来同建物に被告会社東京営業所を開設し、原告に無断、本件土地を使用していることを知つたので、その後同三二年七月六日、正式に原告代表者岩丸丑之助および原告代理人藤田政義弁護士を前記被告会社東京営業所に差し向けて同営業所長中谷宏に対し、『本件土地は原告が約一〇年前に音峰から買受けて、その所有権を取得し、約八年前からこれを竹ノ内に賃貸していたものであるから、被告会社が原告に無断で右土地を使用することは、不法占有である』旨説明し、速かに本件建物を収去して本件土地の明渡をなすよう請求すると共に、もし被告会社において和解を望む場合は、適当な条件であれば、原告もこれに応ずる用意がある旨伝えたところ、被告会社側はかねて竹ノ内から本件土地の実際の所有者は原告である旨聞かされていたので、なんら異議なく右土地に対する原告の所有権を承認し、そのうえで示談解決を希望した。そこで、原告は本件土地を被告会社に賃貸する場合は、権利金を金二五〇万円、賃料を三カ月金七、〇〇〇円とし、右土地を売買する場合は代金を金六五〇万円とする旨の両案を提示した。すると、被告会社側は、その後、前記東京営業所と大阪の本店とで右提案の回答を協議し、その結果同会社代理人村上晋一弁護士を通じて、原告代理人前記藤田弁護士に対し本件土地の賃借を申入れ、前記示談の成立を計ると共に、右交渉が停滞するや、更に積極的に原告主張のように二回に亘り、昭和三二年七月分から同三三年三月分までの本件土地の賃料として、原告主張の金員を前記村上弁護士をして原告代表者岩丸に宛て供託させた。そこで、原告は将来も被告会社が原告を本件土地の所有者として取扱うものと信用し、更に当時音峰の所在は原被告いずれの当事者にも、全く不明であつたので、まさか被告会社が音峰から本件土地を二重に譲受け、先に所有権取得登記を経由することもあるまいと安心し、被告会社は勿論のこと、音峰に対しても、本件土地の二重譲渡を防ぐ保全処分その他裁判上の権利行使は、これを差控えていたこと。」が認められ(もつとも、以上の事実中、「藤田弁護士が昭和三二年七月六日、被告会社東京営業所を訪れたこと。村上弁護士が藤田弁護士と交渉したこと。および被告会社の本件土地の賃料供託の点」は当事者間に争がない。)右認定に反する(省略)の各供述はこれを措信できない。

ところで、他方「被告会社が、本件土地の公売を知つてこれを落札しようと考えたり、またかねて所在不明であつた音峰とあつて、同人より本件土地を買受けたのは、既に同会社が本件土地に対する原告の所有権を認め、これを前提として原告に対し同土地の賃借方の交渉や賃料の供託をした後である昭和三三年二月頃のことであること」は既に述べた認定の経過により明らかであるが、更に(証拠―省略)ならびに弁論の全趣旨を綜合すれば、「被告会社は、原告が本件土地の公売に気が付かず、また音峰の行方を探していることを知つていながら原告に対し右公売を教えることなく、また音峰と売買契約を締結することは勿論のこと同人の出頭さえも通告せずに、ひそかに音峰と本件土地の売買契約を締結し、即日代金の一部を支払いこれと引換えに被告会社のため所有権移転登記手続を経由し、その後間もなく原告に対し、被告会社が音峰から本件土地を買受けて、その所有権移転登記も完了したから、前記供託書類の返還を求める旨通告したこと」が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はないから、以上の各事実を彼此綜合すると、「被告会社は、前記公売、特に音峰の出現により俄かに態度を一変し、原告に対し従来の劣位の立場から法律的に優位の立場に飛躍して、原告との紛争を有利に解決するため原告に登記のないことを奇貨として、音峰と秘密裏に急遽本件土地の売買契約を締結し、これが対抗方法を具備したもの」と推認できる。

そうとすれば、以上説示の諸事情のもとでは、被告会社は原告に対する背信的悪意の第三者というべく、したがつて、登記の欠を主張するにつき、正当な利益を有しないものといわなければならない。

(三)  なお、被告菅野、同勝沼が原告に対し、登記の欠を主張する正当な利益を有する第三者に該当しないことは、いうまでもない。

しからば、原告は被告らに対し、本件土地の所有権を以て、登記なくしても対抗できるものというべきである。

第二、本件土地の占有および登記関係等。

請求原因第二項および第三項は当事者間に争がない。

そうとすれば、原告は本件土地の所有権確認を求めるにつき、正当の利益があり、被告会社は本件土地の真正なる所有者である原告に対し、同土地につき所有権移転登記手続をなし、且つ本件建物を収去して本件土地を明渡す義務があり、また被告菅野、同勝沼は原告に対し、本件建物より退去して本件土地を明渡す義務あるものというべきである。

第三、結論。

よつて、原告の本訴請求は、すべてこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行の宣言については、本件諸般の事情に鑑み、これを付さないこととして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第一四部

裁判長裁判官 古 川 純 一

裁判官 磯 部   喬

裁判官 加 藤 和 夫

目 録(省略)

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